痔ろう(あな痔)と肛門周囲膿瘍
痔ろうは肛門周辺の皮膚と肛門内がつながるトンネル状の穴ができてしまう病気です。直腸と肛門の境目には歯状線という部分があります。ここには10個程度の肛門陰窩という外向きの小さなくぼみがあり、そこから細菌感染を起こして化膿する肛門周囲膿瘍を起こすことがあります。肛門周囲膿瘍でたまった膿は出口を求めて肛門周囲の組織に穴を開けながら進み、最終的に肛門周辺の皮膚までつながるトンネル状の穴を作ってしまった状態が痔ろうです。このトンネル状の穴は「瘻管」と呼ばれ、自然にふさがることはありません。瘻管は内部の細菌感染を繰り返し起こして複雑に枝分かれして治療が困難になっていきますし、がん化する可能性もあります。肛門周囲膿瘍や瘻管内の感染で化膿すると熱感、痛み、高熱などの症状を起こし、膿が排出されるとこうした症状が治まります。ただし、なかなか膿が排出されないと敗血症を起こすなどの危険性もあります。一刻も早く切開による排膿が必要な場合もありますので、早めに受診してください。
原因
通常、肛門陰窩に便が入ることは少ないのですが、勢いの強い下痢で入りやすくなるため、下痢しやすい人の発症が多いとされています。また、疲れや睡眠不足、ストレスなどで免疫力が落ちていると感染しやすくなると考えられています。また、炎症性疾患である潰瘍性大腸炎やクローン病の合併症として痔ろうになるケースもあります。
肛門周囲膿瘍・痔ろうの症状
肛門周囲膿瘍では熱感、痛み、高熱などの症状が現れます。痛みは座れないほど激しいことがありますし、熱は38~39℃の高熱になることもあります。瘻管ができて膿が排出され痔ろうを発症するとこうした症状がなくなります。痔ろう発症後、再度炎症を起こして肛門周囲膿瘍になると症状も再び現れます。また、痔ろうでは肛門内外をつなぐ穴が開いてしまっている状態ですから、下着の汚れやかゆみ、かぶれ、鈍い痛みなどを起こすこともあります
複雑化させないために
特に強い症状がないからと痔ろうを放置していると瘻管がアリの巣のように複雑に枝分かれしてしまう可能性があります。肛門には肛門をしっかり締め付けて便や液体、臭いすら漏らさない肛門括約筋があり、周囲には細かい毛細血管が縦横に走る静脈叢があります。痔ろうの瘻管が複雑に伸びてしまうと肛門括約筋や静脈叢が大きなダメージを受け、肛門の機能が果たせなくなってしまいます。複雑化した痔ろうの手術はかなり困難になってしまいますし、肛門機能の温存が難しくなります。QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を保つためにも、できるだけ早く当院を受診してください。
痔ろうの手術
痔ろうは保存的療法で治すことができず、手術でしか治せません。そして痔ろうの手術は、瘻管の長さ、角度、位置、枝分かれの状態、数などによって適した手法が異なります。痔ろうは肛門陰窩に原発巣がありますが、手術ではその原発巣まで確実に切除する必要があります。知識と経験、そして繊細な手技と高い技術力を必要とする手術ですから、信頼できる専門医の受診が不可欠です。
瘻管切開開放術(lay open法)
後方(背中側)は括約筋を少しでしたら切開しても機能的な問題が起こりにくいため、後方の単純痔ろうに用いる手法です。根治性の高さと再発率の低さが大きな特徴となっています。
括約筋温存術(くりぬき法)
瘻管をくりぬいていって、肛門陰窩の原発巣を閉鎖することで肛門機能の温存を図れる手法です。括約筋を切断しないため、後方以外の痔ろうに適しています。
シートン法
時間をかけて瘻管を切開しながら同時に治癒を進めることで、肛門機能へのダメージを最小限に抑える手法です。瘻管に医療用のゴムや紐を通して、少しずつ縛っていきます。治療を行う数ヶ月の間、何度か締め直す必要がありますが、肛門の変形が少なく、ダメージを残しにくいという大きなメリットがあります。締め直す時に痛みや違和感を生じることがあります。